楽な仕事

 公務員って、楽だよな。

 そう考えていた、自分は甘かった。

 僕は、ある市役所の、生活保護課に配属されている。うちの市は、生活保護を受けている人が多い。人口五万人のうちの、一割はいるだろうか。それくらい、多いのである。

 勿論、本当に生活に困っている。仕事も簡単に見つからないため、生活保護が命綱となっている、そんな人が大多数だ。だが、極稀に、そうではない人もいる。

 本当は何不自由なく生活出来ているのに、生活保護を貰うためなら、どんな手でも使う。人にばれないように、親やきょうだいの名義で貰う。わざとに仮病を使って、貰っている人もいれば、陰で、購入が禁止されている、自動車やブランドのバッグを買っているとか、そんな人も少なくはない。

 そして、生活保護の額が少ないだの、通っている病院の医療費が高過ぎるから、医療費を下げてくれだの、無理難題ばかりを言ってくる。生活保護の額を上げたくても、それが、所得や家族の人数で決まっているのだから、上げられないのである。このように、モンスターな受給者たちにはほとほと、困り果てていた。何が、「公務員は楽」だ! 同級生のその言葉に乗せられて、うっかり公務員になってしまった、自分を悔やんだ。

 ウチには、十二歳離れた兄がいる。もう三十過ぎているのに、結婚することなどまったく考えていない。兄は、高校時代までまったく将来の夢を考えていなかった。一応は、どの進路にでも対応できるようにと、進学校に通っていた。だが、成績は下から数えた方が明らかに早かった。そんな兄が、突然教師志望になったのは、高校一年の冬のことだった。テレビでやっていた、武田鉄矢主演の『金八先生』に衝撃を受けて、急に、教師になりたいと言い出したのである。

 そのとき母は、「ケンジもやっと、将来の進路のことを考えるようになったのね」と喜び、何ひとつ文句を言わず、兄を教育大学まで送り出した。

 一方の僕は、と言うと、高校二年まで、将来の進路を考えたことがなかった。普通に、事務とか営業の仕事でもしていようかな、なんて、適当な考えを持っていて、結局何も考えなかった。

 そして、高校二年になってすぐ、クラスメイトたちが休み時間にこんな会話をしていたのを、盗み聞きしてから、本気で公務員になろうと思った。

「俺、公務員になろうと思うんだ」

「えー」

「だってさ、公務員って楽だもん」

「まあ、そうだよね。時間から時間で帰れるし、仕事だって限られてるしね」

「仕事って、めっちゃ簡単なんでしょ。与えられた仕事だけやっていればいいんだしね」

 そんな会話を聞いていると、公務員がオイシイ仕事のように思えて、どうしても公務員を目指そう、と思うようになった。

 その日の帰り、公務員試験の問題を買ってきて以降、それ以外のことは何も考えられないほど、勉強に集中した。その甲斐あって、高校三年生のときに、市役所に受かり、翌年から市役所で働くことになったのだが。

 何が、楽な仕事だ。毎月一日になると、市役所の外まで続くような、大量の受給者に対して、